トーヤマン

トーヤマンの伝説

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洞爺湖ジオレンジャー

 

第六話 贖いの峠 

六日六晩歩き続けた若者が、さぞや立派な名のありそうな大きな山の、さぞや立派な
名のありそうな大きな峠に差し掛かったときのことだった。
もうすぐで峠の頂上だというとき、どうしたことか、季節はずれの雪がちらつき始めたか
と思ううちに、突然激しく降りはじめ、そこに風もつのって、あっという間に、ひどい吹雪
になってしまったんだと。
あたりはどんどん暗くなって視界はことさらに悪く、気温もぐんぐんと下がっていった。
手足はこごえ、かじかみはじめた意識のなかで、ただならぬ異変を感じていたんだと。

「この季節にこの吹雪とは、これはただ事ではない。いったいなにが起こったのだろう。」
と、雪に足を取られない様に注意深く登って行くと、突然、すざましい咆哮が森から森、
山から山へと峠中に響き渡ったのさ。
目の前の雪の山が見る間に膨れ上がったかと思うと、雪の中から巨大な白いセタ(狼)
が飛び出し、すざましい吠え声と共に、恐ろしい勢いで若者の方へと駆け下って来るで
はないか。
「なんと、これはどうしたことだ。」
驚きながらも若者は、セタは木には登れまいと思い、とっさに傍らの大きな木に飛びつ
き、大急ぎで登り始めた。そして木から木へと飛び移ったが、巨大な白いセタは、その
ままの勢いで突進し、その木木を片端からなぎ倒したんだと。
木の倒れる寸前に雪の上に飛び降りた若者は懐に手を入れ、カンナカムイの珠を取り
出すとそれは光の矢に変わり、巨大な白いセタに向かってそれを思い切り投げつけた。
あたりに閃光がはしり、それは、まるで強弓を満月の様に引き絞って放った矢のように
一直線に飛んで眉間に突き立って、巨大な白いセタは雪の中にどうと倒れた。
すると不思議なことに、それと同時にそれまでの大吹雪は嘘の様におさまり、厚い雲は
切れて陽がさしだすと、厚く積もった雪さえ跡形も無く消え去ったのさ。

「神の使いか魔神かは分からないが、これほど見事なセタ。このままにしてはおけない。」
と思い、若者は難儀をしながらも大きく土を掘り、このとてつもなく巨大な白いセタを埋め
て塚を作り、その塚に、傍らの大石と、美しい模様のあるマキリで作ったイナウをあげた。

するとそのとき、塚の陰から年老いた白いシュマリカムイ(狐の神)が現れたのさ。そして、
「私は喉(のど)を六つ持つシュマリカムイとして、レタルセタカムイ(白い狼神)に使えて
おりました。麓のコタン(村)にパウチ(淫魔)やパコロカムイ(疱瘡神)などの悪神が来る
ときや災害や災いが起こりそうなときなど、いろいろの声で鳴いて、周辺のコタンにそれら
を知らせていたのです。そして、これがアイヌモシリでの、私の最後の使いです。」
と言って、レタルセタカムイからの言葉を伝えたんだと。

「私は、劫(=極めて長い時間)を経てレタルセタカムイとなった、この山と峠を支配する神
ヌプリコロカムイである。珠を渡すためにお前が来るのを待っていたのだが、残念ながら、
それを果たす前に、我が命が尽きてしまった。
そこで私は、一度カムイモシリ(神の国)に行き、他のカムイたちにいま少しの時間をもら
おうと身体を離れている隙に、性質の悪い神に身体を取られ、お前を襲うことになった。
しかし幸いに、お前の手によって悪神は倒され、我が心は安心してシュマリカムイと共に
カムイモシリに帰ることが出来る。そして、もうすぐお前の旅も終わる。」
と、間もなく若者の旅の終わること、そして二人の仲間に出会うことを告げたんだと。
そして美しく輝く珠を若者に渡したのさ。
珠を手に取り、顔を真っ直ぐに上げた若者は、こうして最後の旅へと出発したんだと。
 
                                              2009.12.30
 

洞爺湖ジオレンジャー

第七話

 

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