トーヤマン

トーヤマンの伝説

トー・グリーン

ウス・レッド

ソー・ブルー

洞爺湖ジオレンジャー

 

第四話 流星の命 

若者は、六日六晩歩き続け、急な下りの山道へとさしかかった。日は落ち、やがてさらに、
その道は下るのに難儀するほどの、狭く急峻な道になった。
慎重に足場を選びながら下って行くうちに雲行きがあやしくなって、星星は消え消えとなり、
いまにも雨が降りそうな気配が感じられた。
「雨が降るとこの道はやっかいだ、ペツ(滝)の様になって、歩くことはできなくなるぞ。」
と、つぶやいたときだ、やや平坦で狭い場所だが、何本かの大きな木々が重なって倒れ、
その木にごちゃごちゃとつるの絡まっている処に出たのさ。
一瞬、そこにただならぬ様子を感じたのだが、見た目の恐ろしさとは違って、とても居心地
の良さそうな場所に思えたので足を止め、木々の隙間に腰をおろしてほっと一息をつくと、
疲れと雨宿りが出来るという安心からついうとうととしてしまった。そのとき振り出した雨の
音も、疲れた若者には心地よかった。

どれくらい経ったのか、突然、ものすごいがなり声を聞いて目が覚めた。雨は止んでいて、
とても蒸し暑く感じられた。
若者の前には、小さな子供ほどの背丈で頭がはげ、土に残る足跡は鎌のような形をした、
奇妙な姿の者がいた。ミトンチカムイ(河童神)だった。
ミトンチカムイは目を吊り上げ、はげた頭を振りたてながら、さかんに怒鳴っているのだ。
「お前は何様だ、ここは俺様が木を倒してそれにつたをかけて用意した、俺様の寝床だ。
それを横取りしようったて、そうは行くものか。」と、いまにもつかみかからんばかりの勢い
だった。
慌てた若者はその場所から立ち上がり、頭を下げながら、
「待ってくれ、私は知らなかったのだ。ここにきたときには日が暮れてしまい、今にも雨が
降りだしそうだったので、雨を避けようと入ってしまったのだ。どうか、許して欲しい。」と、
丁寧な言葉で心からミトンチカムイに詫びた。
ミトンチカムイは、若者に悪気の無いことを感じて、許し、傍らに座るようにと言った。

若者は、ミトンチカムイに乞われるまま、旅の目的やこれまでのことをすっかり話した。
やがて東のそらがうっすらと白み始めたころ、ミトンチカムイは、
「この道はこの先から急な登りになっていて、その頂には巨鳥フリーの住処がある」
フリーとは巨大な鳥で、こいつが住み着くや、森も山もすっかり荒れ果ててしまうのだ。
「この道は、元々は人間の通る道だったのだが、フリーが住み付いてからは人間は通れ
なくなってしまったのだが、しかし、お前はこの道を通らないわけには行かないようだ。
フリーは人間を見つけると、かならず嘴爪にかけようと襲ってくる。しかも、その力は
並大抵では無く、恐ろしいほど強力だ。人間にはなす術もなく、ひとたまりも無い。」
と言ったのさ。そして、
「フリーと戦うにはこれが役にたつ。リコホマイの宝だ。」と、若者に小さな袋を渡した。
受け取ってみると思った以上にそれは軽く、何の変哲のある袋には見えなかったのさ。
礼を言って顔を上げると、そこにミトンチカムイの姿はもう見えなかった。
「フリーを退治したら袋を開けてみるが良い」という声だけが、まだ暗い西の闇の中から
聞こえてきた。

戦慄の峰 

腰にミントチカムイから貰った小さな袋をしっかりと結わえ、若者はさらに険しく氷のように
冷たい風が吹き狂う尾根を越える山道を這うようにしてのろのろと登って行くと、そこには
びっしりと枝の生い茂る深いエゾ松の黒い森があり、日の光をさえぎって、まるで夕方の
様に薄暗かった。
若者はフリーを警戒し、様子を見ながら、また聞き耳を立てるようにそろそろと進んだが、
何の様子をもうかがい知ることが出来なかった。
そこで若者は、周りの様子を確かめようと傍らの大木にとびつくと、するすると登り始めた。
その天辺の枝の間から顔を出したとき、突然あたりが暗くなり、すざましい羽音とともに風
が巻き起こったのさ。
見上げると、目ざとく若者を見つけたフリーが若者めがけて巨大なくちばしを振り下ろし
てくるところだった。
慌てず、若者はほのかに青白く光るエムシを取り出し、その巨大なくちばしの攻撃を払い、
枝の上へと飛び出した。
それを見たフリーは「ちょこざいな」とせせら笑い、二度三度と狙いを定めては若者めがけ
て襲いかかってきたが、若者のエムシはことごとくそれを防いだ。

それにしても、ミントチカムイのくれた小さな袋の効き目は、それはたいしたものだった。
フリーはそれから何度か若者に近寄ってはくちばしにかけることは出来ずに離れ、また
近寄っては爪にかけようとしたが出来ずに離れしたが、若者にはどうやっても毛ほどの
傷さえも与えることは出来なかったんだと。
それどころか、フリーは若者に近寄るたびに、だんだんと力を無くして行き、目に見えて
攻撃は鈍り、ついには翼を動かすことさえやっとというありさまになって、やがて息も絶え
絶えとなってしまったのさ。
「いままで俺は、誰と戦っても負けたことは無かった。だがなぜか分からないが、どうやら
お前にはかなわないようだ」
と言うと、美しい尾羽を一枚落としていずこへか飛び去って行った。

若者は枝にかかった、美しい尾羽を拾い上げた。
若者は木からおりた。そして、さっそくミントチカムイからもらった小さな袋を開けてみた。
そこには、小さな星のかけらが光っていた。
あのミトンチカムイは、リコホマイ(星のあるところ=天上から追放された我ままな星の子
が落ちた処)の沢から来たものだったのだ。
やがて星のかけらは複雑に輝きを発し、若者の手の中で美しく輝く珠に変わった。
 
                                             
2009.12.28
 

洞爺湖ジオレンジャー

第五話

 

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