トーヤマン

トーヤマンの伝説

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洞爺湖ジオレンジャー

 

プロローグ

昔、アイヌモシリ(人間の大地=北海道)の西のはずれのコタン(村)に、一人の優れたオツ
テナ(むらおさ)があった。
オツテナは誰にも優しく、そしてとても勇敢であったので、コタンの誰からも慕われておった。
そんなオツテナには一人の息子があったが、何をやっても長続きせんし、さっぱり上手くもな
らんかった。
それどころか、最近では空ばかり見上げてボーっとしていることが多くなり、ため息をついて
ばかりいるのを見て、
「何か悪い病気ではないか。」、「悪いカムイ(神)にでも憑かれたのではないか。」
「どこぞのコタンのピリカメノコ(美しい女性)にでも、心を奪われたのかもしれんぞ。」
と、コタンの人たちは、皆で心配しておった。

そんなある日のこと、オツテナが息子を呼んで、言ったんだと。
「お前は体躯も大きく手先も器用だ。とりわけて頭が悪い訳でも無い。しかし、何をやっても
長続きしないのは、お前の心に芯が欠けているからだ。心に芯を持つことが出来れば、優し
くも強くも生きられるのだ。」
そして、
「かつては私もそうだった。旅に出て、その旅の中で心の芯を持つことを学んだのだ。」
と言った。
だからさ。若者は悟り、身の回りのわずかばかりの物を持って心の芯を探す旅に出ること
にしたのさ。
オツテナは、「我が家に伝わる家宝だ。」と言って、柄に美しい模様のあるマキリ(小刀)を
持って行くようにと言い、若者はそれを懐に入れて、旅に出たんだと。
 

第一話 嘆きの森

若者は、進むあてもないまま、陽の昇る方へと六日六晩歩き続けて、黒い森に辿り着いた。
そこはとても深い森に見えたし、恐ろしげに轟轟と風が枝に鳴っていたので、遠回りをしよう
かと迷ったが、自分の旅の目的を思い出して森の中を進むことにしたのさ。
思い切って森へ踏み込んでみると、案の定、森は暗く深く、確かに恐ろしげではあったけれど、
しかし、思いの外にと感じるほどに静かだった。
何の物音も気配も感じることのないままに、若者は、奥へ奥へと進んで行った。木々は息を
ひそめるかの様に物音をたてず、森の中を細く長く続く一本道は、どこまでも平坦だった。
怠り無く、あたりに注意を払いながらも、若者は恐れることなく穏やかな道を進んでいった。

このまま、何事も無く森を抜け出ることが出来るのではないかと、若者は思い始めたのさ。
ところが日が沈み、空に細い月が昇るころになると、にわかに、しかもいたるところに多くの
気配が感じられるようになったんだと。
木々が囁きを交わし始め、そして歌い交わすかのように、風も無いのに枝が揺れたんだと。
突然、木たちが立ち上がって動き出し、今にも襲ってくるのではないかと若者には思えた。

そして真夜中になり、踏み出す一歩がやけに重くなったなと感じたとき、若者は木木の間に
光を見て、眠気を振り切り、迷わずその光を目指してずんずん進んだんだと。
やがて若者は、火の焚かれている小さな広場に出た。そこは焚き火を中心にして、いくつもの
切り株が、その焚き火を囲むように幾重かに配置されていた。
誰かいないかとあたりを見回したが、誰も見当たらなかった。若者は、火を囲む切り株の一つ
に腰を下ろした。
燃える炎の暖かさと六日六晩を歩き続けた疲れからか、若者はふ〜っと大きくため息をつくと、
とたんに深い眠りへと落ちた。
若者は夢の中で、たくさんの声を聞いた。苦しみの声、のろいの声、恨みの声、叫ぶ声、泣い
ている声、むせぶ声、怒声、罵声、怨嗟の声、唸る声、咆える声を聞いた。
その声は暗く、重く、悲しく、若者の胸を締め付け、そして、長く長く続いた。
何かをしゃべる声、ささやく声、歌う声、嘲笑、そして、たくさんの乾いた笑い声も聞いた。
若者は訳も無く悲しくなってきた。涙が頬を伝い、思わず大声で叫びたくなった。
そのとき、それらの声をなだめ、そんな気持ちを落ち着かせるような子守唄を、心地良く聞いた
と思ったとき、ふっと、誰かが前に立った気配がして目をあげた。
イフンケカムイだった。 (イフンケカムイ=子守唄の神=エゾモモンガ)

イフンケカムイは静かに言った。
「森の入り口で木々を鳴らし、警告したのになぜ森に入ってしまったのか。ここは死者の森。
死者が集まっては自分の身と不幸を呪い、怨み、嫉み、憎み、怒り、諦めては嘆き悲しむ森。
カムイエロシキ(神の御座)。死せる者の森。生ける身を持つ者の来るところではない。
よもやこの森でため息をつけば、二度と抜け出ることの叶わない森なのだ。」と。
若者は言った。
「私は心の芯を求めて旅をしています。戻ることはもちろん、怯えることも、たじろぐことも出来
ないのです。そして、心の芯を手に入れるまでは、ここに留まることも出来ないし、この旅を
終えることも出来ないのです」と、そう言い切ったとき、静かにイフンケカムイは若者に近づき、
輝く珠を差し出して、
「北へ進むが良い」と言った。
その輝く珠を受け取ったとき、不意に若者は目が覚めた。そこは、森を抜け出た所だった。

そしてなんと、若者の疲れは驚くほどに消えていたのさ。
「夢か・・・、それにしてもいつの間に森を通り抜けていたのだろう」と思ったとき、懐に何かが
あるのに気がついた。取り出してみると、イフンケカムイあの輝く珠だったんだと。
  
                                                 2009.10.11
 

洞爺湖ジオレンジャー

観光宣士トーヤマン

第二話

 

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